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仙台家庭裁判所 昭和30年(家イ)354号 審判

国籍

日本

住所

仙台市○○町○○番地

申立人

松山カナ(仮名)

国籍

アメリカ(ウイスコンシン州)

住所

申立人に同じ

相手方

ウイリアム・ピカツト(仮名)

主文

申立人と相手方とは本日離婚する。

当事者間に出生した長女ケート(昭和二十九年十二月○○日生)の親権者を相手方とすること。

申立人は相手方に長女ケートを昭和三十年九月○日引渡すこと。

相手方は申立人が昭和三十年八月九月分の妻の家族手当として一ケ月八十一ドル九十仙を米軍キヤンプ○○○○より受領しその所得とすることに異議なきこと。

相手方は帰米の日に肩書居住家屋内に同人が保管する別紙目録(注、省略)の日本製動産を同人宅に於て申立人に引渡すこと。

理由

昭和三十年八月二十五日の調停期日に於ける申立人の調停についての陳述の要旨は、申立人は昭和二十九年一月○日日本駐留中の相手方米国軍人ウイアム・ピカットと婚姻し、同年十二月○○日長女ケートが出生した。処が夫は酒を好み、屡々徹夜して多量に飯酒し、常習泥酔者であり、帰宅して暴力を振い、申立人の家族手当八十一ドル九十仙の一部を酒代に当るため要求する始末で、申立人が節酒をすすめるも応ぜず、之が為常に夫婦間に葛藤が起り、申立人は精神的、肉体的苦痛に堪えぬため、相手方が近く(本年八月末日の予定)帰米するのであるが、妻として米国へ移住意思は絶対になく、帰国書類に対する妻としての署名を拒絶した。依て此際相手方と離婚し、長女ケートは申立人を親権者とし子の養育費及申立人の生活費として、申立人の生活安定の時期迄、一ケ月一〇〇ドルを支払うよう調停を求むと述べた。

相手方は申立人陳述の通り申立人と婚姻し、両人間に女児ケースが出生したる事実を認め、此際申立人と睡婚することに同意する。そして平素酒(特に日本酒)を好み、時に多量に飲酒することは事実であるが、妻は強情で情愛がなく、妻としての態度に欠く処があるからで、時々喧嘩をするが元来両者の婚姻は当然夫が帰米の際妻として同道すべきであるが、申立人は帰国書類に署名を拒絶した。従て勝手に離婚の要求をするのであるから、生活費は一文も支払う義務はない。又長女ケートは私の子であるから妻が親権を持つことは絶対に同意しない、自ら親権を行い、近く帰米の際連れ帰り将来立派に養育したいと述べた。

そこで調停を試みたる処、結局申立人と相手方は離婚すること。長女ケートの親権は相手方(父親)とすること。申立人は相手方に同長女を昭和三十年九月○日引渡すことを協定した。尚相手方は現在家庭内で使用してある日本製動産若干は帰米の日に申立人に贈与してもよい、又申立人妻が家族手当一ケ月八十一ドル九十仙を昭和三十年八月、九月分(受領は順次一ケ月遅れとなつている)を受領し所得とすることに苦情はないが、生活費支払いについては相手方において諒解が出来ず調停は不成立に終つた。

然し裁判所に於て審判により決定されることは当事者共に苦情がない旨附言した。

依て当裁判所は職権を以て審案するに、当事者が昭和二十九年一月○日東京都に於て婚姻したことは記録添付の戸籍謄本により明かであり、同年十二月○日長女ケートが出生したこと及妻に対する家族手当一ケ月八十一ドル九十仙であること(受領は順次一ケ月遅れとなつていること)、相手方が近く帰来するための帰国書類に申立人は署名を拒んで未だに署名しないことは当事者間に争いない事実である。

そして調停に於て当事者が納得協定した結果は、相手方は申立人との離婚に同意し、長女ケートの親権を相手方とし、昭和三十年九月○日相手方に引渡すこと、妻の家族手当一ケ月八十一ドル九十仙を本年八月、九月分申立人妻が受領すること、現に夫婦として肩書地所在の家庭に於て使用中の日本製の動産若干を申立人の所有とし帰来の際申立人に引渡すこと、は相手方に於て苦情はないのであるから、不一致の点は生活費支払の点だけである。

依て当事者の離婚原因が双方の本国に於て適法であるかを考察するに、申立人の主張する理由は、相手方夫は婚姻直後より多量に飲酒し屡々徹夜して飲酒し、申立人の禁酒の勧告を受入れず、最近は度数も繁く所謂常習的泥酔者であり、之が為め常に夫婦間に葛藤が起り暴力沙汰となるので、精神的、肉体的に苦痛であるから、婚姻継続は勿論、夫と共に米国に入国の意思なく、帰米手続に署名を拒んだというに在り、当事者の陳述を対照綜合考察すると日本国民法第七百七十条第一項第五号に定める婚姻継続し難い重大な事由に相当するものと認められる。

相手方は妻が強情で情愛がなく、妻としての態度に欠く処があるから自然外部で多量に飲酒するようになり、酔余の結果時々夫婦間で紛議が起り暴力沙汰ともなるのであるが、後でよく覚えていない。要するに妻は精神的に夫より離れ、米国に移住する意思がなく、近く(帰米は八月中の予定であつた)帰米する書類に署名を拒んだのであるから申立人の意思を容れ、離婚に同意するというのであるから相手方の本国法であるウイスコンシン州法中離婚に関する法律によれば離婚原因に該当するので本件離婚は当事者の各本国法により適法である。

次に申立人の要求する生活費について観察するに、相手方は近く(昭和三十年八月末の予定であつた)帰国するのでその書類提出について申立人に署名を求めた処、妻は之を拒み米国に移住する意思は全然なく、又相手方は妻が勝手に離婚を求めるのであるから生活費は一文も支払わぬというのである。依て諸般の事情を参酌し、此際当事者間の離婚と共に他の関係全部を解決しなければ今後互に困難の立場となることが想像し得るので、申立人は相手方から家庭内に於て使用しつつある主文記載の日本製動産並に本年八、九月の二ケ月の妻としての家族手当を各受領し、解決することが最も妥当であり之が将来の摩擦を防止し双方の前途を明るくする所以であることが推認し得るので、アメリカ合衆国ウインコンシン法中離婚に関する法規に則り日本法例第十六条同家事審判法第二十四条を適用して主文の通り審判する。

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